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2013年1月31日 (木)

『部落民』の定義をどうするか?

以前、橋下徹氏の出自をもとに部落民の定義を考える記事を書いたところ、とある方から、「では、部落民の定義が曖昧だと何が問題なのか?」という質問をいただきました。

実はこの問題、とても難しいのです。部落民の定義が曖昧になったのは最近のことなので、参考にできる先行研究が少なく、納得できる解答は見当たりません。

いちおう報告しておくと、部落民の定義についてはいろいろな議論があります。中国史学者の藤田敬一氏は、1998年に著書「『部落民』とは何か」で、被差別部落の近代化により部落民の定義が揺らいでいることを指摘しています。

では定義が揺らぐことの何が問題なのでしょうか。
一つの見方として、解放運動の担い手が育たなくなったり、被差別部落という共同体が解体するのではないか、という部落民側の危機感があります。

部落民は、『被差別部落』という共同体のもと、大きな『差別』と戦ってきました。ところが現代では、経済環境の改善によって『差別』はだいぶ衰退しました。では、差別が無いのなら、『被差別部落』という共同体は不要ではないか、という議論が起こるわけです。

被差別部落にずっと住んできた筆者が思うに、ほとんどの被差別部落には日本の伝統的なムラ社会の構図が息づいています。「田舎は全員が知り合いでプライバシーが無い」とかそういうのを想像してくれればいいでしょう。既存のムラ社会に慣れた人々は、ムラ社会を手放すことに抵抗を抱くことが多いです。
ですが、現代ではムラ社会に参加しようがしまいが自由です。実際、多くの人が被差別部落を出て、他の人と同じように住居を構えています。

要は、被差別部落を含む封建的な社会と、現代の自由主義的な社会のジレンマです。

ムラ社会を維持し続けるか、離れるかは個人の自由であり、どちらが絶対的に悪という話ではありません。ぶっちゃけ筆者は自由主義的な考えであり、被差別部落のコミュニティにはほとんど参加していません。

では、被差別部落に残ってムラ社会に残る人はともかく、自由主義的な社会の中で、被差別部落とはかかわりなく生きていく人は、自分が被差別部落民だと意識する必要はないのでしょうか?

残念ながら、筆者はそう簡単にはいかないと思っています。橋下徹氏の事例がそれを証明しました。彼は父親が被差別部落出身ですが、ずっと別居していて自分は被差別部落とは無縁だ、と言っています。しかしながら、週刊新潮や週刊朝日の例を見てわかるように、一部の人からは、「橋下徹は部落」だと判断されています。

自分は「部落ではない」と言っても、相手に部落だと認識されたらどうしようもないという現実があります。

彼は自分と被差別部落に関わりがあることを知っていたからまだいいのです。実は今、自分が被差別部落と関わりがあることを知らないために起こった問題が急増しています。

被差別部落を出た家庭の子どもが、自分が被差別部落にルーツがあることを全く知らず、結婚の時に興信所の調査で被差別部落出身であるとされて断られるケースがあります。また、その逆で、自分が被差別部落にルーツがあることを知らないがため、『エタ』などの差別的な言葉を、自身が被差別部落にルーツがあるにもかかわらず使うという事例もあります。

このように、部落民の定義が曖昧になったことで起こる新しい問題があるのです。

筆者の意見をまとめると、現代の自由主義的な社会では、部落民の定義を厳格に決めるのはリスクのほうが大きく、やるべきではありません。しかし、少しでも被差別部落出身の近親者がいる場合、自分が被差別部落と関わりがあることを自覚しておかなければ問題を引き起こす可能性があります。ですから、「自分は部落民だ」などと名乗る必要は無いにしても、自分のルーツは知っておく必要があります。

長くなりましたが、最後に「部落民の定義が曖昧だと何が問題なのか?」という問いに筆者なりに解答すると、「定義が曖昧なこと自体は問題ではないかもしれないが、それによって新しい問題が発生することは避けなければならない」ということでしょうか。筆者は部落差別がなくなりさえすれば何でもいいという立場なので、被差別部落という共同体の存続などについては詳しくありません。とにかく差別によって人が傷つくのを防ぐことだけを考えています。

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